ドローンで書き換えられる「安全保障の常識」
ウクライナで、ロシア軍相手にドローンが大暴れする現実は、日本の軍事専門家の間にも衝撃を与えているようだ。これまで多くの軍事評論家がドローンの戦場での有効性を疑問視していた。 小説家で軍事評論家の元自衛官・数多久遠氏は、開戦前に「TB2は、防空ミサイルシステムならば容易に撃墜可能」「総合的に見れば、バイラクタルTB2は、地上への攻撃を行うことを意図した場合、ほぼ確実に撃墜されるものと思われます」「防空ミサイルシステム「9K37ブーク」などにとっては、機動性能が貧弱で低速なバイラクタルTB2は“カモ”でしかありません。」(「バイラクタルTB2」無人攻撃機はロシア軍に対して有効か? /JBpress)と指摘していた。しかし、戦争が始まれば「9K37ブーク」を含む10基がTB2にほとんど一方的に撃破され、カモにされた。 軍事ライターの稲葉義泰氏も開戦前に「海自に自爆ドローンが不要なワケ また必要以上に備える必要もない納得の理由とは?」と言う題の記事を「乗り物ニュース」へ寄稿。ドローンに関心を寄せなかった自衛隊の後進性を擁護していた。 軍事/生き物ライターであるJSF氏も開戦前に「バイラクタルTB2というドローン(無人機)はウクライナと敵対するロシア軍を相手に通用するのでしょうか? 答えは否です」(バイラクタルTB2無人攻撃機はロシア正規軍相手には通用しない/Yahoo! ニュース個人)「まともな正規軍が動き出したら今の技術のドローンでは通用しないよ」としていた。 過去には、2019年9月に、サウジアラビアの石油施設19か所に対する自爆ドローンによる攻撃が起きた。当時の米国トランプ大統領は、イランの関与を指摘していたが、イランがイエメンのイスラム教シーア派の反体制武装勢力フーシにドローンを提供し、中東の不安定化につながっているとの見方も多い。過激派にも安価で入手できるドローンが世界中の安全保障の脅威となっていたが、まさかその「脅威」が、今回の対ロシア軍の切り札的存在になろうとは驚きを禁じ得ない。自爆ドローンは「カミカゼドローン」とも呼ばれ、恐れられている。 この2019年の自爆ドローン事件を機に、日本でもドローンへの警戒が進んでいる。20年度の防衛白書には「中国電子科技集団公司は、2018年5月、人工知能を搭載した200機からなるスウォーム飛行を成功させており、2020年9月には中国国有軍需企業が無人航空機のスウォーム試験状況を公開している。このような、スウォーム飛行を伴う軍事 行動が実現すれば、従来の防空システムでは対処 が困難になることが想定される」と記載がある。 飛んでいるドローンを検知し、飛行不能にする「アンチドローン」の研究開発を進めるカーシエルの安藤浩平代表取締役は「日本では2015年に首相官邸にドローンが落下する事件が発生しました。事件に使用されたのはDJI社製のPhantomという製品で、誰にでも手に入れることができるドローンでした。このドローンに小型の爆弾が搭載されていれば大惨事になっていたかもしれません。当時より、さらにドローンの性能は格段に向上しています。特定企業の開発現場を狙った〈盗撮〉など、日本企業には一刻も早いドローン対策が必要です」と指摘する。 過激化するドローン戦争への備えを怠ってはならない。安全保障の常識がヤマダ電機で売っているドローンによって塗り替えられているのだ。戦史における潜水艦、飛行機、戦車の登場に匹敵するインパクトとなる可能性を秘めていると言うことであろう。
小倉 健一(イトモス研究所所長)
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